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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
13 黒白帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页
おそらくは、それとなくお別れにまいったものでございましょうか」
伝奏の公卿が、奏した。
侍側の親房はこの日、おもなる公卿と共に別院にはいったきりで見えなかったが、廉子にはその協議のなみならぬこともわかっていたので、
「亜相はいまおいででないが苦しゅうあるまい。謁をとらせてやりましょう。階の下に待たせておおきなさい」
と、伝奏へ言った。
そして、四、五の近臣と共に、後村上をうながして、出座した。
正行はぬかずいていた。
「簾を上げたがいい」
と、後村上はとくに簾を捲かせて正行を見た。
正行のはたらきはたびたび上聞に入っている。後村上は、いつも北畠顕家をおもい出され、さぞ顕家にもまさるたくましい若武者かと想像されていたが、いまみると公卿の顕家よりはずっと小柄で痩せてもいた。
そして年もご自分とあまりちがわぬようなと眺めながら、こんな弱小な身で、どうしてしばしば足利勢のきもを寒からしめるような戦功を剋ちとるのであろうかと不審のようなお顔であった。
「正行とは其許か」
「はい」
「いつも聞いておる」
「かたじけのう存じまする」
「父の正成もえらかったのだな。まろは顕家とみちのくに長くいて正成とは会うていぬが、いまでも、ここの旧臣たちは、寄り寄り、正成の死を悼んでやまぬようだ」