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あきくさのみ
秋草の顆
佐左木 俊郎
「今日の文学」1931(昭和6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,856 字 · 8 页
ただ、無暗とがちゃがちゃさせていた。併し、貞子はどうしたのか立っては行かないので、私は仕方なく又立って行ってその扉をあけた。そして私はすぐに峻の靴先を視詰めていた。やはり彼の靴先も露でしっとり濡れ、その上に秋草の顆がいっぱいについていた。褐色の、楕円形の花のような、細かな細かなその顆は、貞子の靴先についていたのと、全く同じものであった。同じ草地からの顆であった。私はひどく明るい朗らかなものを感じさせられた。そして私は腹の底で「峻も貞子も、注意して靴先を拭って帰るものだよ」というようなことを言わずにはいられなかった。併し、それは例によって言葉にはならなかった。ただ一言「遅くなりました」とさえ言うことの出来ない峻に対して、私はもちろん「どこを歩き廻っているんだ?」というような質問の出来る人間ではない。私は、一緒に歩いていたのなら、一緒に帰って来ればいいのにというようなことを身体の中のどこかで呟き、この二人の上に何かしら微笑を感じながら書斎に戻ったのだった。
――昭和六年(一九三一年)『今日の文学』一月号――