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かがくにこころざすひとへ

科学に志す人へ

寺田 寅彦

「帝国大学新聞」1934(昭和9)年4月30日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,605 字 · 8 页

青空文庫

先生方や諸先輩の研究に対する熱心な態度を日常眼のあたりに見ることによって知らず識らずに受けた実例の教訓が何といっても最大な影響をわれわれ学生に与えた。暑いも寒いも、夜の更けるのも腹の減るのも一切感じないかと思われるような三昧の境地に入り切っている人達を見て、それでちっとも感激し興奮しないほどにわれわれの若い頭はまだ固まっていなかったのである。

大学へはいったらぜひとも輪講会に出席するようにと、高等学校時代に田丸先生友田先生からいい聞かされていたから、一年生の頃からその会の傍聴に出席して、片隅で小さくなって聞いていた。話は六かしくて大抵は分からなかったが、ほんのわずかばかり分かることが無限の興味と刺戟を与え、そうして分からない大部分への憧憬と知識慾をそそるのであった。それよりも、先生方や先輩達の、本当に学問に余念のない愉快な態度が嬉しかった。今はもう皆故人となった佐野さん須藤さん大谷さんなどの諸先輩の快活で朗かな論争もその当時のコロキウムの花であった。アインシュタインの相対性原理の最初の論文を当時講師であった桑木さんが紹介され、それが種となって議論の花を咲かせたのもその頃の事であったのである。