轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

しんのゆうしゅう

秦の憂愁

豊島 与志雄

「文芸」1944(昭和19)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,389 字 · 19 页

青空文庫

無錫の近くに彼の生家があって、それは可なりの豪家らしく、そこへ向後幾年間か引き込んでしまうことに、彼の心はほぼ決しかけていた。いろいろなことで、上海に於ける彼の身辺に脅迫が重なりつつあるのは、私にも分っていた。然しこの事柄については別な物語に譲ろう。

郷里の無錫に心が向いている彼は、無錫料理を好んだ。その夕方、私も彼と共に老酒を飲みながら大石蟹をつっつき、槍蝦をかじり、蚶子をほじくった。清水のなかに住むこの大蟹と小蝦と小貝との生肉について、彼はしきりに自賛していた。

「こういう食物は、寄生虫の伝説さえなければ、日本の文学者にも好かれそうだ。」と彼は言った。

その文学者のことから、私は、星野武夫に逢ったらどうかと言いだした。

「そうだね、礼を欠いてはいけまい。」と彼ははっきり言ったのである。

然し、彼の顔はなんだか曇っていた。それから、眉根に皺を寄せて暫く考えた。

「今からすぐに逢おう。」

そう言ってしまうと、彼はまた晴れやかな顔付きになった。

彼は名刺を取り出して、鉛筆で二三行走り書きした。それから、いつも彼が引き連れている張浩を、星野武夫のホテルへ遣した。