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ちちぶのみやでんかにじしてやりがたけへ
秩父宮殿下に侍して槍ヶ岳へ
木暮 理太郎
「女性改造」1923(大正12)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,876 字 · 20 页
有明神社から四時間とは費さないであろう。骨の折れる道という程の道ではない。しかし真夏の日盛りであるから暑さはきびしい。お伴の人達が汗にまみれる頃になると、殿下は清水の流れている木蔭や谷の隈で、そこらに転がっている岩の上又は丸太などにお腰掛けになって、お休みになる。尤も路のほとりに白い幔幕を張り廻して、御休息所らしいものがしつらえてあるにはあったが、御立寄りにならなかった。これは畏くも山の旅であるという御気持の上から、特殊の施設を避けさせられて、わざと御立寄りにならなかったものと有り難く拝察した。
温泉の在る所は海抜千四百六十米を超えている。温泉は山裾の各所から湧き出して、盛に蒸気を噴出しているものもあれば、沸々と熱い湯玉をたぎらしているものもある。湯の種類も湯の量も極めて豊富で、幾棟にも分れた建物に浴場が設けられ、湯は満々と湛えて而も溢れて止まない。実に気持のよい湯だ。其外蒸風呂もあれば湯滝もあり、泳げるような大きなプールさえも設けてある。そして余った湯は其儘小川をなして中房川に流れ入るのである。夫を見ると何だか惜しいような気がする。
殿下が温泉へ御着きになったのは午後二時半頃であった。