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ちごほうし
稚子法師
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1924(大正13)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,609 字 · 16 页
斯うして幾年か経過した、その時京都白川の里で尊い聖僧が衆人の前で生ながら土中に埋もれて入定したと云う噂が諸国の人々に依って語られたが、其聖僧こそ他ならぬ稚子法師であろうと評判された。
「衆人の前で土中に埋もれ入定するとは尊厳の事だ。いかにも稚子法師に相応しい事だ」
そういう評判を聞いた人は知るも知らぬも斯う云う稚子法師の最後振りを賞讃した。そうして涙を流しさえした。斯うして又も幾年か経ち、やがて天保十四年となった。其時死んだ筈の稚子法師が意外にも此世へ現れて来た。
其時の様子を「翁問答」には次のように面白く記してある。
『花園少将通有卿、白川の地に館を立て、几張の局と住み給ひしが、不思議や前庭の花園に当りて念仏の声幽にきこゆ。松吹く風かと思へども念仏の声に紛れ無し、声の在所を止めて行けば思はざりき牡丹の下なり、青侍二人を召して、花下の土を掘らせ給う。楠の板一枚あり。刎起こして下を覗けば、年老いたる法師一人念仏詣りて余念無し。助け出して何者と問へば稚子法師阿信なりと答ふ。何故地下には居給ふぞと訊けば数年以前に入定はしたれど未だ往生出来ずと云ふ。
「何故往生為給はぬぞ?」