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いのうはりまのかみ

稲生播磨守

林 不忘

「講談倶楽部」講談社、1935(昭和10)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,172 字 · 29 页

青空文庫

殿をお憎み申し上げるなどとは、もっての外だ。

森 しかし、人倫の大道に反く以上、殿といえども、そのままには――。

郁之進 いやいや! 滅相な! 殿の一言一行こそは、善悪を超えて、そのまま人倫の大道と申すべきだ。もう言うな。加世がお側へ召されて、もう十日になる。お気に入るように勤めていてくれればよいが――。

森 (じっと相手の表情を注視して)聞くところによれば、お加世どのは君を慕って、泣いてばかりおるということだ。

郁之進 なんという不届きな! おれはそれを聞くと、加代の心得違いが情なくて、涙が出る。なみだが出る。(と泣く)

森 さあ、起てるか。

郁之進 池田の怒るのが、おれにはすこしもわからん。彼男は、とんでもない邪悪な考えに取り憑かれておる。うん、立てるとも。

森 (植込みの奥を見こんで)おう、もうお歌の会がはじまりそうだ。さ、行こう。

郁之進 おれはこの衣紋の崩れを直してから行く。貴公、構わず先に行ってくれ。

森 そうか。では、待っているぞ。(去る)

郁之進 (そのうしろ姿をじっと見送って、独り言)池田といい、森と言い、揃いもそろっておれを疑っておる。ああ情ない。