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あきや

空家

宮崎 湖処子

「国民之友」1889(明治24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页

青空文庫

不了簡を責め、同年者もとかくに止め、別して彼が幼き時膝にあげたる一人の老媼、阿園とともに昼ごろまで泣きて止めたれど動く様子少しもなく、いよいよ明朝の出立と定まりぬ、阿園も今は涙を拭き、足袋行縢を取り出し、洗濯衣、古肌着など取り出でて、綻びを縫い破れを綴り、かいがいしく立ち働く、その間に村人は二人の首途を送らんと、濁酒鶏肉の用意に急ぎぬ、

その夜夫婦は最も温かなる寝床をとり、最も悲しき睦言を語れり、一生の悲哀と快楽を短か夜の尽しもあえず鶏は鳴きぬ、佐太郎は二度の旅衣を着て未明より誘い来たれり、間もなく父老朋友を初め、老媼女房阿園が友皆訪い集い、ここより別るるものは勇蔵が前に来て慇懃にその無事と好運とを祈り、中には涙に溢れて、再び逢い見ぬもののごとく悲しき別れを宣ぶるもありき、

一行は今勇蔵が家を出でたり、春の日のいとも遅々たるさまにはあれど、早くも村の外に出でたり、路傍の一里塚も後になりて、年経りし松が枝も此方を見送り、柳の糸は旅衣を牽き、梅の花は裳に散り、鶯の声も後より慕えり、若菜摘める少女ら、紙鳶あげて遊べる童子ら、その道この道に去り来る