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あきや
空家
宮崎 湖処子
「国民之友」1889(明治24)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页
馬子らも、行き逢う旅人らも、暫時佇みてはるかにゆく一行を眺めやりぬ、早や一里余も来ぬると思うころ、大仏と言う川の堤に出て、また一町余にして広々たる磧に下り、一行はここに席を列ね、徳利を卸し、行炉を置き、重箱より屠れる肉を出し、今一度水にて洗い清めたり、その間にあるものは向いの森より枯枝と落葉を拾い来たりて燃しつけつ、早やポッポッと煙は昇れり、
この大仏川の磧は、この近郷の留別場にしてかねてまた歓迎場なり、江戸詰めの武士も、笈を負いて上京する遊学者も、伊勢参宮の道者本願寺に詣ずる門徒、その他遠路に立つ商用の旅なども、おおよそ半年以上の別離と言えば皆この磧まで送らるるなり、されば下流に架る板橋は、行人の故郷を回顧する目標なるがゆえに見返りの橋と名づけられ、向いの森は故郷の観を遮るゆえに隠しの森と呼ばれ、対う塘の上に老いたる一樹の柳は、往くも送るもこれより別るるゆえに名残りの柳と称えられぬ、いと広き磧の中央、塵芥しみて黄色になれるは、送別の跡の絶えぬ証拠にして、周辺の石にシロジロと古苔蒸せるは、無事を祝して濺ぎし酒のかびなり、岸辺に近き砂礫の間、離別の涙揮いし跡には、青草いかに生い茂れるよ、行人は皆名残りの柳の根を削りてその希望を誌して往けども、再びここに歓迎せらるるもの、昔より幾人