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あきや

空家

宮崎 湖処子

「国民之友」1889(明治24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页

青空文庫

村落は今秧すみてしばらくは農事閑なり、あたかも賊軍熊本を退き世間の物情とみに開けし折なりければ、村人もまた瓢箪を負い行廚を持ち、いずこより借り来たりけん二三の望遠鏡さえ携えつつ、戦争見物とて交る交る高きに登れり、戦争は遠くして見えねど、事によせたる物見遊山も、また年中暇なき山賤の慰藉なるべし、そのうちに阿園は一人残されて心細くもその日を送れり、二人が門を出でし日より、今は三月に及べどもいずれよりも便りなければ、旦暮その無事を祈るのみ、さりながらひたすら戦場の消息に耳を傾けたればにや、彼は村人がかつて聞かざる珍事を聞き得て、近処の老母らが音ずるごとに、新たなる物語もて彼らを驚かせしなり、

げにや阿園は熊本城の一たび危かりしこと、熊本城の大将は谷少将と言える清正公以後の豪傑なること、賊軍の巨魁西郷隆盛は以前は陸軍大将にて天朝の御覚えめでたかりしものなること等より、田代よりゆきし台兵が、籠城中に戦死せしこと、三奈木より募られたる百人夫長が、陣中の流行病にて没くなりしこと、甘木の商人が暗号を誤りて剣銃にて突かれしことなど、おおよそ近郷四五里の間の遠征戸籍は一々に暗記したり、最後に館原の藤吉が、輜重を運べる