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あきや
空家
宮崎 湖処子
「国民之友」1889(明治24)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页
と、遺言ようの秘密を洩らしぬ、女房は声を揚げて泣きつつ答えり、「卿にもしものことあらば前夜よりしばしば誓いたる通り、妾は必ず尼になりて、卿の菩提を弔わん、……さりながらかりそめにもかかる悲しきこと言わるるは、死にに往かるる心にや、さように心を痛めずとも、つつがのう帰りてよ、妾はいつまでも待ちおるべければ」と、勇蔵がなお何か言わんとせし折、磧の手巾は再び揚りて夫婦を呼びぬ、
この留別場に女はただ阿園のみなりき、彼は今泣き顔を水に流し、給士酌一人して立ち働き、一坐の雑めきに暫時悲しさを紛らしぬ、一坐の歓娯も彼が不運を予言するもののごとく何となく打ち湿り、互いに歌う鄙歌もしばしば途切れ、たまたま唱うるものあれば和するものなく拍子抜けてついに黙りぬ、かくして時もやや移り、酒肉も尽きければ、イザと立ち上る佐太郎を力に、勇蔵も力なく立ち上り、一同も皆立ち上りて塘を出づれば、名残りの柳は一群の人を双方にふり分けぬ、二人は見返りの橋をわたり、隠しの森の端に沿い、行き行きて影も遠くなり、森のあなたに影消ゆれば、跡はただ大仏川のみ行方も知らず流れゆきぬ、
中