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くうしゅうそうそうきょく
空襲葬送曲
海野 十三
「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页
最早機関銃もピストルも間に合わなかった。敵味方は肉体を以て相手の上に迫って行った。
乱闘、又、大乱闘。
どこから飛んで来たのか、乱闘の現場に近く、一台の偵察機が、低く舞い下って来た。誰も気付かぬ裡に、機体からスルスルと、縄梯子が下ろされ、やがて飛行服に身を固めた人が、機上から姿を現わすと、一段一段と、梯子を下りて行った。とうとう一番下の段まで来たときに、上を向いて合図をした。
この不思議な飛行機は、宙乗りの人物を釣り下げた儘、乱闘の真唯中を目懸けて、いよいよ低く舞い下ってきた。プロペラを急に停めたのは、速度を下げるためだと思われたが、何という大胆な振舞であろう。一体、何をしようというのか。
敵も味方も、突然飛びこんで来た怪物に、ソレと気がついて逡いだ。
「呀ッ」
という瞬間に、宙乗りの人物は、右手を横にグッと伸ばすと、戸波博士をヤッと抱きあげた。博士の両足は、地上を離れた。
それを合図のように、飛行機は、又漠々たるプロペラの響をあげ、呆気にとられている「狼」の一団を尻目に、悠々と空中へ舞い上っていった。
「これで、祖国は救われたッ」
草津大尉が、沈痛な声を発して、ハラハラと涙を流した。