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くうしゅうそうそうきょく
空襲葬送曲
海野 十三
「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页
だが、事ここに至って、躊躇はいけない。
「戦闘用意!」大尉は、僚機の方へ、手を振って合図をした。
「戦闘始めイッ!」
エンジンを全開にして、宙返りの用意を整えながら、全速力で敵機へ突入した。
敵は早くも機首を下げて、襲撃の形を示した。
そのとき、極めて不思議なことが起った。まだ二聯装の機関銃の引金を引かないのに、向ってきた敵機は、爆弾でも叩きつけられたかのように、機翼全体に拡がる真赤な火焔に裹まれ、木の葉のように、海上目懸けて、墜落して行った。大尉は、まるで狐につままれたような気がした。始めて気がついて、すこし遠くの空間を見廻わすと、これはどうしたというのだろう。あちらでもこちらでも、まるで松明行列を見るように、米軍の大小の飛行機が、火焔に包まれ、真黒な煙を蒙々と空中に噴き出しながら、海面へ向けて、落ちて行くのが見えた。
途端に――
「ぶわーッ」
大尉は機胴に、恐ろしい衝動を感じた。
「やられたかッ」
大尉は、それでも、反射的に水平舵を引いた。
「おお、あれはメーコン号だッ」
覚悟をした大尉の戦闘機は、何の苦もなく平衡をとりかえし、何事も無かった。
大尉を驚かせたのは、米艦隊の最上の空に、守り神のように端然と游泳をつづけていたメーコン号が、一団の火焔となって、焼け墜ちてゆくのを発見したことだった。