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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

「お父さん」

「おお、弦三か。よく帰って来た」

「この前、お父さんにあげた防毒マスクが、いよいよ役に立ちますよ」

「うん」長造は感慨探そうに云った。「あまりいいことじゃない。それにマスクは一つじゃなア」

「お父様」弦三は、電灯の下へ、大きな包みをドサリと置いた。

「いよいよ、皆の分を作ってきましたよ。姉さんはいますか、姉さん」

「あい、此処よ」後に下っていたみどりが顔を出した。

「ここに、鉛筆で使用法を書いときましたから、大急ぎで、消毒剤を填めて、皆に附けてあげて下さい」

「弦三、お前まだどっかへ行くのかい」

母親が尋ねた。

「僕は直ぐ出懸けます」

「この最中に、どこにゆくんだ」長造が問いかえした。

「淀橋の、兄さんのところへ、マスクを持ってゆくんです」

「なに、黄一郎のところへか」

「ほら、御覧なさい。この大きい二つが、兄さんと姉さんとの分。この小さいのが、三ツ坊の分」

「なるほど、三ツ坊にも、マスクが、いるんだったな」

「よく気がついたね」母親が、長男一家のことを思って、涙を拭いた。

「それにしても今頃、危険じゃないか。いつ爆弾にやられるか、しれやしない。あっちでも、相当の用意はしてるだろうから、見合わしたら、どうだ」