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くうしゅうそうそうきょく
空襲葬送曲
海野 十三
「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页
それはまさしく時機に適したことだった。周りにはホスゲンの嫌な臭いが、いまだプンプンとしていた。
その男は、防毒マスクに気がついたのでもあろうか、側らを指さした。髯男が見ると、そこには、若い女が、彼女の子供でもあろうか、赤ン坊を、しっかり胸に抱いていた。髯男は駭いて、機を外さず、残りの二つのマスクをめいめいに被せてやった。その一つは、偶然にも、当歳の赤ン坊用のマスクだった。
「なんという不思議な暗合だろう。親子三人に、親子三人用のマスク!」
髯男は、六ヶ敷い数学解法を発見でもしたかのように、驚嘆した。
だが、この親子三人が、花川戸の鼻緒問屋下田長造の長男、黄一郎親子であり、マスクを背負っていた死青年は、同じく長造の三男にあたる弦三であり、弦三は死線を越えて、兄達に手製のマスクを届けようと、負傷の身を堪えてどうやら此の場所まで来たところを、自制のない群衆のため、無残にも踏み殺されたものであって、弦三は死んだが、その願いは、極どいところで達せられたことを髯男が知ったなら、彼はどんな顔をして駭いたことであろうか。いや、あとで、黄一郎親子が、マスクの裏に記された「弦三作」