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ぬすむおんな
窃む女
黒島 伝治
1923(大正12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,734 字 · 18 页
最初、借りて来たまゝの反物が包んである。金目から勘定すると、十円でこれだけは、どうしても買える筈がなかった。だが、納屋の蓆の下にでもかくしてあると思っていたものを、誰れの目にもつき易い台所に置いてあるのが、どういう訳か、清吉には一寸不審だった。
彼は返えす筈だった二反を風呂敷包から出して、自分の敷布団の下にかくした。出したあとの風呂敷包は、丁寧に元のままに結んだ。
妻が彼の知らない金を持っていようとは考えられなかった。と云って、如何に単純でたくらみがないとは云え、窃んだ物を台所に置きっ放しにして平気でいられようとは思われなかった。
「窃んだのじゃあるまい。買ったんだ。」
彼は、自分にそう云ってみた。そう云うことによって、たとえ窃んだものでも、それが奇蹟的に買ったものとなるかのように。
家の中も、通りもお正月らしく森閑としていた。寒さはひどかったが、風はなかった。いつもは、のび/\と寝ていられるのだが、清吉は、どうも、今、寝ている気がしなかった。彼は寝衣の上に綿入れを引っかけて外に出た。門松は静かに立っていた。そこには蕎麦や、飯が供えてあった。手洗鉢の氷は解けていなかった。