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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
あまりよく似たれば、姉上と呼ばむとせしが、よしなきものに声かけて、なまじいにわがここにあるを知られむは、拙きわざなればと思いてやみぬ。
とばかりありて、その姿またかくれ去りつ。見えずなればなおなつかしく、たとえ恐しきものなればとて、かりにもわが優しき姉上の姿に化したる上は、われを捕えてむごからむや。さきなるはさもなくて、いま幻に見えたるがまことその人なりけむもわかざるを、何とて言はかけざりしと、打泣きしが、かいもあらず。
あわれさまざまのものの怪しきは、すべてわが眼のいかにかせし作用なるべし、さらずば涙にくもりしや、術こそありけれ、かなたなる御手洗にて清めてみばやと寄りぬ。
煤けたる行燈の横長きが一つ上にかかりて、ほととぎすの画と句など書いたり、灯をともしたるに、水はよく澄みて、青き苔むしたる石鉢の底もあきらかなり。手に掬ばむとしてうつむく時、思いかけず見たるわが顔はそもそもいかなるものぞ。覚えず叫びしが心を籠めて、気を鎮めて、両の眼を拭い拭い、水に臨む。
われにもあらでまたとは見るに忍びぬを、いかでわれかかるべき、必ず心の迷えるならむ、今こそ、今こそとわななきながら見直したる、肩をとらえて声ふるわし、