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りゅうたんだん

竜潭譚

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页

青空文庫

空青く晴れて日影まばゆく、木も草もてらてらと暑きほどなり。

われはハヤゆうべ見し顔のあかき老夫の背に負われて、とある山路を行くなりけり。うしろよりはかのうつくしき人したがい来ましぬ。

さてはあつらえたまいしごとく家に送りたまうならむと推はかるのみ、わが胸の中はすべて見すかすばかり知りたまうようなれば、わかれの惜しきも、ことのいぶかしきも、取出でていわむは益なし。教うべきことならむには、彼方より先んじてうちいでこそしたまうべけれ。

家に帰るべきわが運ならば、強いて止まらむと乞いたりとて何かせん、さるべきいわれあればこそ、と大人しゅう、ものもいわでぞ行く。

断崖の左右に聳えて、点滴声する処ありき。雑草高き径ありき。松柏のなかを行く処もありき。きき知らぬ鳥うたえり。褐色なる獣ありて、おりおり叢に躍り入りたり。ふみわくる道とにもあらざりしかど、去年の落葉道を埋みて、人多く通う所としも見えざりき。

おじは一挺の斧を腰にしたり。れいによりてのしのしとあゆみながら、茨など生いしげりて、衣の袖をさえぎるにあえば、すかすかと切って払いて、うつくしき人を通し参らす。