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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
されば山路のなやみなく、高き塗下駄の見えがくれに長き裾さばきながら来たまいつ。
かくて大沼の岸に臨みたり。水は漫々として藍を湛え、まばゆき日のかげもここの森にはささで、水面をわたる風寒く、颯々として声あり。おじはここに来てソとわれをおろしつ。はしり寄れば手を取りて立ちながら肩を抱きたまう、衣の袖左右より長くわが肩にかかりぬ。
蘆間の小舟の纜を解きて、老夫はわれをかかえて乗せたり。一緒ならではと、しばしむずかりたれど、めまいのすればとて乗りたまわず、さらばとのたまうはしに棹を立てぬ。船は出でつ。わッと泣きて立上りしがよろめきてしりいに倒れぬ。舟というものにははじめて乗りたり。水を切るごとに眼くるめくや、背後に居たまえりとおもう人の大なる環にまわりて前途なる汀に居たまいき。いかにして渡し越したまいつらむと思うときハヤ左手なる汀に見えき。見る見る右手なる汀にまわりて、やがて旧のうしろに立ちたまいつ。箕の形したる大なる沼は、汀の蘆と、松の木と、建札と、その傍なるうつくしき人ともろともに緩き環を描いて廻転し、はじめは徐ろにまわりしが、あとあと急になり、疾くなりつ、くるくるくると次第にこまかくまわるまわる、わが顔と一尺ばかりへだたりたる、まぢかき処に松の木にすがりて見えたまえる、とばかりありて眼の前にうつくしき顔の