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どうてい

童貞

夢野 久作

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页

青空文庫

「これは……横浜じゅうで一番大きいエメラルドで御座ます。バトラが私に買ってくれました……」

しかし彼はその宝石よりも、彼女の柔らかい、冷たい掌の感触の方が嬉しかった。それは彼が久し振りに受けたに違いないであろう若い異性の感触であった。

彼は固い宝石ごしに彼女の掌を力なく握り締めた。そして、仄暗い草の陰から、ジット彼女の顔を見上げていた。

その顔を見下していた彼女は、何と思ったか、すこしばかり顔色をかえた。頭を擡げて静かにあたりを見まわした。そうしてイヨイヨ誰もいない事がわかると、獣のようにザワザワと草を押しわけながら這い寄って来て、彼の顔の前にピタリと坐り直した。

「オホホホホホホ。まあ……そんな事でしたの……そんならそうと早くおっしゃればいいのに……オホホホホホホ。妾……もっと真暗になるまでここにいるつもりですから、何でもお言葉に従いますわ……何なら非常線の解けるまでこの工場の中に泊っても構いませんわ。誰もいませんから……」

彼女はここで言葉を切って、もう一度そこいらを見まわした。そうして彼の顔の上に顔をさし寄せて、彼の瞳の中をジッと覗き込みつつ、物悲しい、蠱惑的な微笑を見せた。