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どうてい

童貞

夢野 久作

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页

青空文庫

「コラッ……」

と巡査はヤケに靴の先で昂作の尻の骨を蹴った。たまらない痛みがズキンと頭の天辺まで響いたが、その拍子にまたも烈しい咳があとからあとから出て来て、往来の物音も何も聞こえなくなった。

「待て待て……」

と私服の刑事らしい男が巡査を押し止めながら、昂作の前に跼み込んだ。

「お前は病気しとるんか?」

昂作は苦しい咳の切れ目に、すこしばかり上目づかいをしながら首肯いた。その男は日に焦けた顔にチョッピリと黒い髭を生やして、薄鼠色のインバネスを着ていたが、新しい麦稈帽を阿弥陀に冠り直しながら、昂作の顔を覗き込んだ。

「……お前はこの乳母車を若い女に頼まれて、ここまで押して来たんじゃろう……」

昂作は微かにうなずいた。ようようの思いで咳を押し鎮めながら……。

「……フ――ム……そんならお前は、その女の顔を記憶しとるじゃろう……ナ……しとるじゃろう……ウンウン……記憶しとる……それは眼の大きい、口の小さい、頬の丸い、二重腮の女じゃったろう。チョット見たところ肉感的な……ウンウン……その女の耳朶に小さな穴がありはせんかったか……耳輪をはめた……ウンウン……出たらめを答えると承知せんぞ……ええか……それから」