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きょうそう

競漕

久米 正雄

「新思潮」1916(大正5)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,312 字 · 34 页

青空文庫

夕飯には褒賞の意味で窪田が特別に一人約二合ほどの酒を許した。合宿で公然と酒を飲ませるのは真に異例であった。今まで選手の誰れ彼れことに二番の早川などが秘密に酒を飲んで来たことはある。別にそれを窪田は面責はしなかった。しかしその翌日の練習にはきっと六七分の続漕を課した。すると飲まない人は平気だが酒を飲んだ男は大抵参ってしまう。そして初めて練習中に酒を飲むことの害を自分で覚ってしまうのである。しかしこの日は少量であるが皆が心措きなく飲んだ。そして少し酔い気味で皆は、「是非勝つ。これだけ全力を注げば敗けるはずはない」などと盛んに自信の念を燃やし初めた。窪田は皆が勢いづいて来るのを黙って傍の壁に凭りながら見ていた。彼の顔には、「だんだん俺の思い通りになって行くぞ」という満足の微笑があった。

二三日してから法科がまた口惜しがって挑戦をして来た。その時は四分の力漕をやってこっちが半艇身ほど敗けた。けれども法科とおっつかっつに行くというのはもう紛れもない事実であった。そして皆はそれにかなり満足していた。

三

競漕の日はだんだん近づいて来る。その一週間ほど前に学習院の競漕会があった。