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かさおりはんくろう

笠折半九郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,004 字 · 26 页

青空文庫

二

しかし斯うしたやりきれない紛擾は、いちど行き着くところまで行かぬ限り、解決のしようがないのである。そして最も信頼する相手を最も卑しく考えるという、非常に矛盾したことが、この場合には極めて自然な成行きになってしまったのだ。

明くる朝、半九郎はまだ暗いうちに起きた。……霜のひどい朝だった、裸になって頭から何杯も水を浴び、新しい肌着に、継ぎ裃で支度をした。そして食事はせずに家を出た。

供を連れなかった。足の下に砕ける霜の音を聞きながら、ようやく明けはじめた早朝の町を、なにも考えずに砂村の方へ急いだ。

鼠ヶ島は紀ノ川の砂洲の発達したもので、実生の松が僅に林をなし、周囲は枯れた蘆荻が叢立っていた、……朽ちかかった踏板を渡って島へ登ると、乳色の川霧を震わせて、千鳥がけたたましく舞い立った。

――まだ来て居らんな。

ひとわたり見渡して、そう呟きながら、半九郎は小松原の方へ入ろうとした。すると、それを待受けていたように、松のあいだから進み出て来た者があった。

「……小次郎か」

半九郎は五六歩あとへ跳び退って、大剣の柄へ手をやった。

二

相手は構わず近寄って来た。そして、川霧を押分けてその姿をはっきりと示したとき、半九郎はいきなり眼に見えぬ力で突き飛ばされでもしたように、あっと叫びながらよろめいた。