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かさおりはんくろう

笠折半九郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,004 字 · 26 页

青空文庫

三

斯うなると、考えることはそんな自分を唆しかけるものだけになる、なんでも宜い底の底まで自分を追い詰めて、胸に溢れている妄念を一挙に爆発させてみたい、そういうすてばちな衝動が全く半九郎を捉えてしまった。……ちょうどそこへ、まるで油へ火を投げるような事が起ったのである。

三

「申上げます」

家士の五郎次が襖を明けた。

「呼ばぬうちは来るなと申してある、退れ」

「お客来でございます」

「会わん、誰にも会わんぞ、病臥して居ると云って追い返してしまえ」

「そうお断り申したのですが」

家士は困惑した様子で云った。

「病床でなりとも達てお眼にかかりたいと、みなさま押しての仰せでございます」

「みなさま? ……誰と誰だ」

「柳河三郎兵衛さま、殿村靱負さま、長谷部伝蔵さま、由井、大道の方々でございます」

西丸詰め、二の丸詰めの者たちで、ことに大道市次郎と由井十兵衛は番頭格であるが、孰れもそう親しく往来している訳ではない。

「会ってやる、通して置け」

半九郎は支度を直しに立った。

客間に待っていた五人は病床の見舞いを述べるでもなく、押して面会を求めた釈明をしようともせず、半九郎が座につくのを待兼ねたように、由井十兵衛が直ぐ要談をはじめた。