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かさおりはんくろう

笠折半九郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,004 字 · 26 页

青空文庫

二

雨戸を叩くけたたましい物音に、半九郎が恟として眼を覚ますと、

「笠折はいないか」

と呼びたてる声が聞えた。

「ちょっと起きて呉れ、笠折半九郎は来ていないか」

――小次郎だ。

半九郎はがばとはね起きた。

「よし、己が自分で出る」

起きて来た弥五兵衛を押止め、手早く身支度をした半九郎は、大剣をひっ掴んで、手荒く縁側の方の雨戸を明けた。

「半九郎は此処にいるぞ」

「おっ、笠折いたか」

叫びながら走って来る小次郎を見て、

「約束は卯の刻、場所は鼠ヶ島と云った筈だ、血迷ったか小次郎」

「それどころではない、あれを見ろ」

小次郎は叫びながら手を挙げてうしろを指した。

二

まだ空は全く暗かった。満天の星は朝の霜のひどさを思わせるように、きらきらと研ぎ澄ました光を放っている、……その星空の下に、ぼっと赤く、大きな篝火のような光暈の拡がっているのが見えた。

「火事だ、しかもお城の大手に近い」

半九郎は慄然と身を震わした。

「西丸御門外の武家屋敷から出たが、この風で火は今お城へ真向にかかっている、笠折」

小次郎は持っている物を差出しながら、

「いま貴公の家へ立寄って、多分此処だと思ったから火事装束を持って来た、馬も曳いて来てある、果合いは又のことだ、貴公は櫓番の頭だぞ」