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そこつひょうばんき
粗忽評判記
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页
これだけ云うと、久之進は大股にそこを去っていった、……小萩は失神したもののように馬上にうち伏したまま身動きもしなかった。
こんなことがあったとは、むろん久之進は色にも出さなかった。そして壬生家中に関する限りは誰一人として知らずに過ぎた、それよりも妙なのは、まあそのうちに和解するだろう、と気楽に考えていた明敬と信継が、案外そう容易く仲直りするもようがないことである。明敬は出雲守の屋敷の側を通るのもいやだと云って、登城のおりにはわざわざ行列を遠廻りさせるくらいなのだ、そして久之進に向っても、時おり「出雲め、お役に有り付いて余を見返すつもりか、この頃頻りに老中の御機嫌をとっているそうだ、田圃奉行にでもなる気だろう」などと憎さげに罵るのだった。
悪い時には悪いことが続くものである、田圃奉行にでもなるかと嘲った信継が、それから間もなく本当に御厩奉行に任ぜられた、その告示のあった日のことである、下城して来た明敬は不機嫌そのもので、近習の者に当りちらしたあげく、「久之進、酒の相手をしろ」と云い出した。
「恐れながら拙者酒では懲りております、お上にもさような御気色ではお体に障りましょう」