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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

その婦人は、横蔵・慈悲太郎には、姉に当たる紅琴女だった。

年のころは、三十を幾つか越えていて、鼻のとがった、皮膚の色の透き通った――それでいて、唇には濃過ぎるほどに濃い紅がたたえられているといった――どこか調和のとれない、病的な影のある女だった。そして、すらりとした華奢な体を、揺り椅子に横たえて、足へは踵の高い木沓をうがち、首から下を、深々とした黒貂の外套が覆うていた。

女は、紅琴の慈悲深い言葉で問われるままに、最初自分の名を、フローラ・ステツレルと答えた。

「一とおりお耳に入れて、なぜ私が、この軍船に乗り込まなければならなかったか……、またなぜ、逃れねばならなかったか……、それから、アレウート号がこの島を目指したについての指令を、一応はお聴き分け願いたいと存じまして。でも、それは容易に、御理解できなかろうと思いますわ。あんまり人の世放れのした、それはそれは、不思議な話なんですもの。実は、私サガレンのチウメンで父を殺してまいりました――あのザルキビッチュ・ステツレルをですわ」

とフローラのこめかみに、一条、真っ蒼な血管が浮かび上がると、紅琴は、それを驚いたようにみつめて言った。