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けっこん

結婚

中 勘助

「朝日評論 第一巻第一号」朝日新聞社、1946(昭和21)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,520 字 · 11 页

青空文庫

さて行きついた家はちんまりと門もなしに生垣をめぐらして、話にきいたとおり役をやめて娘三人と書、画、茶、生け花とめいめいくろうと乃至素人ばなれのした技と楽しみをもち、つつましやかに安楽に団欒しつつ余生を送ってる老士官の住居にふさわしいものだった。玄関からあがるとすぐ二階の茶がかった四畳半へとおされ、流れる額の汗をふいて待つま程なく袴をつけた老士官があがってきた。さすがにかっぷくがよくて挨拶にもどこか武張ったところがあるとはいうもののこれが昔二龍山の戦いに僅に生き残った二人のうちの一人で、二龍山のぬしと綽名されて感状や金鵄勲章を授与され、その後も永く大陸で任務についてた人とは格闘でもしてみなければわからない。工兵科だったせいもあるのか器用で絵が好きで自分もなかなかよくかき、病後まだすっかり回復してないというのにつやのいい赤ら顔の見かけに似ず生下戸で、笑うとおかめさんみたいな可愛らしい顔になる。酒の話が出て、私が 酒は好きだし相当飲めるけれど一合でも五勺でもそれだけの満足ができる といった時に

「そりゃえらい。そりゃなかなか出来ないことだ」

といったので

「しかしそうなるまでにはやはりよほど年期を入れませんと」