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ぜつえんたい
絶縁体
豊島 与志雄
「世界」1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页
」
川の水面の渦のことだった。幼い頃、田舎で、渦をじっと眺めていたことがあった。堰のあたりなど、下方に水の漏れる穴でもあったのか、満々と湛えた水面に、大きな渦が巻いていた。周辺はゆるやかな動きだが、それが次第に速くなり、中心に近づくほど急激に回転して凹み、深い穴となって、きゅーっきゅーっと巻き込んでいた。草の葉など投げ込んでみると、初めはゆっくりと遠廻りをし、次第に速い狭い円弧を描き、しまいには中心の凹みに落ち込んで、忽ち吸い込まれてしまった。その渦を眺めていると、身の引き緊る思いがするのだった。
そういうことは私にも、子供の頃に覚えがあった。
「だが、それを今はっきり思い出してみると、違った意味に取れますなあ。つまり、違った感じになるんです。渦は渦ですが、人の心理の渦、それから社会的な渦、そういうものがはっきり見えてきますよ。」
市木さんの表現は簡単でそして特殊であって、私にも充分には理解しにくかったが、要するに次のようなことらしかった。即ち、人間の心理にも一種の渦巻があって、その中心に落ち込んではもうどうにもならない。社会的な関係に於ても一種の渦巻があって、その中心に落ち込んではもうどうにもならない。