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ぜつえんたい

絶縁体

豊島 与志雄

「世界」1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页

青空文庫

スケッチブックを突っ込んだ竹籠を肩にかけ、太い杖をわきに置き、杖のそばには瓢箪が一つ転がっていた。見馴れないその瓢箪が、なんだか薄くなったような長髪と共に、妙にうらぶれた印象を私に与えた。

私は歩み寄って、遠慮なく声をかけた。

「あなたの持ち物に、瓢箪が一つ殖えましたね。」

市木さんは私の方を仰ぎ見て、半端な笑みを浮べた。

「酒がはいってる時は可愛いが、酒がなくなるとつまらなくなりますなあ。」

私はなんとなくそこに屈みこんだ。焼跡の草原で、コンクリートや煉瓦の破片がごろごろしていた。

西空には低く、真黒な雲が重畳していて、その上縁がぎらぎら輝き、その少し上方の深い青空に、太陽がぽかりと浮き出し、銀盆となってぐるぐる回転していた。太陽の方が雲に没するか、雲の方が太陽を覆い隠すか、どちらになるとも分らない状況で、見ていると眼が昏みそうだった。

「スケッチなさらないのですか。」

「いや、とても。」

それきり言葉は途切れた。雲の方がだんだん低くなり、太陽との間が大きくなってゆくようだった。

暫くたってから、市木さんはふいに言いだした。

「へんなことを思い出しましたよ。