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ぜつえんたい

絶縁体

豊島 与志雄

「世界」1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页

青空文庫

それからあちこちに、細長い厚板を横ざまに打ち付けて、塀を強固にするのである。初めの、塀を押し起すところが、危険でもあり力がいる。一人でそんなことをやってる市木さんを、通りがかりのお上さんが、二人も見た。どう見ても、市木さんは強力な人に違いなかった。

けれども、市木さんはいつも取り澄していて、或は無関心であって、怖い人だという印象を与えたことはなかった。強いて言えば、ただいくらか薄気味わるい人だったのである。笑うこともなければ、怒ることもなかった。

それでも、市木さんがほんとに怒ったらしいのを、私は一度見た。

市木さんと隔意なく話をし交際したのは、近所で私一人だった。そうなったのも、実は、妙な機縁からであった。

私は市木さんの裏手の家に住んでいた。市木さんの前の道が直角に折れ曲ってるその道から、狭い路地があって、路地の突き当りに、私の家がある。小さな平家だが、わりにゆったりした庭がついている。庭は板塀ぐらいの高さの竹垣で仕切られていて、その竹垣の先に市木さんの二階家があった。つまり、市木さんの家の裏手と、私の家の横手の庭とが、隣り合せになっていた。