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ぜつえんたい

絶縁体

豊島 与志雄

「世界」1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页

青空文庫

市木さんは頑丈そうな体躯だったが、力もたいへん強いとの噂があった。柔道にも熟達してるとの噂があった。噂の出所は明かでなく、また真偽のほども不明だった。けれども、その噂は如何にも真実らしく感ぜられたし、それも一因となって、女や子供たちから敬遠される風だった。

或る秋の颱風後、倒れた板塀を市木さんが独力で立て直してるのを、二人のお上さんが見た。前日から颱風警報が出ていたが、夜になって風雨が強まり、夜半には可なりの暴風雨となり、翌朝はまだ風はあったがからりと晴れていた。颱風がすぐ近くを通過したわけではなく、被害も大したものではなかったが、それでも、街路には木片や生々しい木の枝葉が散らばり、古い板塀などは所々に傾いたり倒れたりしていた。市木さんの板塀もずいぶん古いもので、門柱のわきが傾き、その先が二間ばかり倒れていた。それを市木さんは一人で立て直していた。

倒れてる塀の頭を両手で持ち上げ、徐々に押し起して、用意しておいた丸太ん棒で左右二ヶ所の支えをし、なお押し起して、少し傾きかげんのところで支えをしてしまう。塀の支柱は一度修理されていてまだ丈夫なので、その根本を地面に埋めて塀を真直に直す。