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りょくいのおんな

緑衣の女

松本 泰

「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,168 字 · 25 页

青空文庫

と泉原は呟いて、ふと着古し膝の丸く出た服のズボンを見下したが、過去った記憶から遁れるように、足早にそこを立去った。海岸通りには涼しい風が街樹の緑をサラ/\と鳴している。音楽堂では賑かなコンサートをやっていた。泉原はそこまで歩いていったが、汽車の着いた時間からいっても、グヰンの一行が海岸にいる筈はないと思ってもとの道へ引返した。夕方倫敦のV停車場で、グヰンを見かけて、こんなところまであとを追ってきたが、女は果して尋ねるグヰンに違いなかったろうか、と彼はいま幾分か不確な心持になっていた。仮令それがグヰンであったとしたところが、彼女は自分をすてゝ逃げたのではないか。貯金帳をもって走ったという事も、自分から告訴する考えもなく、また彼女に賠償させようという気もない以上、彼女の後を追うべき必要は更にない訳である。泉原はそう思って、我ながら斯うして女のあとを追ってきた愚かしさをはがゆく思った。

一時に昼食をとって以来、何も口へ入れなかった泉原は頻りに空腹を覚えてきたので、本通りの裏手へ入って、入りいゝ飯屋をさがそうと思った。彼は小さな商店の立並んだ裏町を曲りくねって、海岸へ通ずる道路幅の広い大通りへ出た。