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ぬいこ
縫子
宮本 百合子
「新潮」1926(大正15)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,962 字 · 20 页
「どれ――僕にもくれ給えよ」
「いや」
「変だね、何なのさ。ウワー、登美っぺ、こんなものが好きなの、驚いたね」
「平気よ」
登美は落付いてまたきんとん煮を食べだしたらしい。羽織を着、餉台に肱をついている英輔の後つき、その横で喋ったり食べたりしている登美のふっくりした顔などまことに楽しく睦じそうに見える。縫子は羨しい、起きたい心を抑えきれなくなって来た。彼女は、欠伸とも吐息ともつかない声を出し、布団のうちで重々しい寝がえりを打った。登美が、
「なあによその声」
と笑いだした。
「起きたらいいじゃないの姉さんたら……」
「起き給え、起き給え! うんと遊べばそんな病気なんぞ癒っちまうよ」
四
英輔の親友が小さい或る銀行の重役のようなことをしていたし、英輔自身慶大の法科に通学していたりするので、杉村の家族は彼が来るといつもどこか家が明るくなったように感じた。娘たちばかりでなく、なみでさえ外から帰って来ると、
「おや珍しい」
と気さくな悦びを示した。
「悠くり出来るんでしょう? 今日は。――伯母さんはいかが相変らずですか」
彼女は布団の上に立って帯をしめかけている縫子を見て、毒のない冗談をあびせた。