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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

友木の眼には涙がにじみ出た。彼はそれを払い退けるように、眼を瞑って頭を振ったが、彼の握りしめた拳は興奮の為にブルブル顫えた。

この春、彼と妻とは続いて重い流行性感冒に罹った。ずっと失業していた友木は、それまでに親戚や友人から不義理な借財を重ねていたので、万策尽きて玉島から五十円の金を借りた。それからと云うものは、友木は病気から十分に恢復し切らない身体で、血のような汗を流しながら、僅かな金を得ると、その大半は利子として玉島に取られて終うのだった。そして、借金は減る所か、月と共にグングン増えて、いつか元利積って二百円余りになった。玉島は少しも督促の手を緩めず、殊に年の暮が近づいて来ると、毎日のように喚めき立てに来るのだった。友木夫妻が三日ばかり食物らしいものを口にせず、年の暮を控えて、一銭の金も尽き、路頭に迷い出る他に道のなくなったのは、玉島の為だと云っても好いのだった。

妻の帰りを待ち侘びながら、友木の心の中は玉島を呪う念で一杯だった。

ジ、ジ、と異様な音を立てて、最後の蝋燭が燃え切ろうとした。ゆらゆらとゆらめく焔に、鶏小屋にも勝って荒れ果てている室の崩れ落ちた壁に、魔物を思わすような彼の黒い影が伸びたり縮んだりした。