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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

玉島を呪い続けていた友木の胸にふと或る事が浮んだ。彼はぎょっとして四辺を見廻したが、やがて、彼は一つ所をじっと見詰めた。彼の表情は次第に凄くなって来た。顔は土のように蒼くなった。

「うむ」

彼は苦しそうに唸った。両方の顳からはタラタラと糸のような汗が垂れた。

「うむ。殺っつけてやろう」

彼はとうとう最後の言葉を呟いた。彼は玉島を殺して終おうと決心したのだった。

彼は玉島と引替えにするような、彼の安い生命を嘲った。然し、彼は他に生きる道はないのだ。あの狐のような玉島が赤い血潮を流しながら、彼の足許でヒクヒクと四肢を顫わして、息の絶えて行く哀れな姿を思い浮べると、彼は鳥渡愉快だった。玉島を殺せば玉島の為に苦しめられている幾人かの人を救う事も出来るではないか。こんな気持もあった。そうしたいろいろの考えが、とうとう彼に玉島を殺す決心をさせたのだった。

こう決心すると、彼は妻の帰って来ないうちに、家を逃れ出る必要があった。妻の顔を見ると、決心が鈍るかも知れないし、妻に余計な苦痛を与えるような結果になるかも知れない。

「私はお前に永らく苦労をかけた。私はもう生きて行く道を知らない。