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うつくしいむら

美しい村

堀 辰雄

序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页

青空文庫

「太郎ちゃんは何処にいるか知らないよ」――私はその時初めてその小さな子供は私の呼んだ男の子の弟であるのに気がついたのだ。しかし何という同じような顔、同じような眼差、同じような声。……暫らくしてから「次郎! 次郎!」と呼びながら、一人の、ずっと大きな、見知らない男の子が庭へ這入って来るのを私は見た。ようやく私になついて私の方へ近づいて来そうになったその小さな弟は、それを聞くと急いでその方へ駈けて行ってしまった。私の方では、その大きな見知らないような男の子が昔私と遊んだことのある子供であるのを漸っと認め出していた。しかし、その生意気ざかりの男の子は小さな弟を連れ去りながら、私の方をば振り向こうともしなかった。

※(アステリズム、1-12-94)

私は毎日のように、そのどんな隅々までもよく知っている筈だった村のさまざまな方へ散歩をしに行った。しかし何処へ行っても、何物かが附加えられ、何物かが欠けているように私には見えた。その癖、どの道の上でも、私の見たことのない新しい別荘の蔭に、一むれの灌木が、私の忘れていた少年時の一部分のように、私を待ち伏せていた。