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ろうふうふ

老夫婦

黒島 伝治

1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,957 字 · 27 页

青空文庫

村の百姓達は為吉を羨しがった。一生村にくすぶって、毎年同じように麦を苅ったり、炎天の下で田の草を取ったりするのは楽なことではなかった。谷間の地は痩せて、一倍の苦労をしながら、収穫はどればもなかった。村民は老いて墓穴に入るまで、がつ/\鍬を手にして働かねばならなかった。それよりは都会へ行って、ラクに米の飯を食って暮す方がどれだけいゝかしれない。

両人は、田舎に執着を持っていなかった。使い慣れた古道具や、襤褸や、貯えてあった薪などを、親戚や近所の者達に思い切りよくやってしまった。

「お前等、えい所へ行くんじゃ云うが、結構なこっちゃ。」古い箕や桶を貰った隣人は羨しそうに云った。「うら等もシンショウ(財産のこと)をいれて子供をえろうにしといた方がよかった。ほいたらいつまでもこんな百姓をせいでもよかったんじゃ!」

「この鍬をやるか。――もう使うこたないんじゃ。」為吉は納屋の隅から古鍬を出して来た。

「それゃ置いときなされ。」ばあさんは、金目になりそうな物はやるのを惜しがった。

「こんな物を東京へ持って行けるんじゃなし、イッケシ(親戚のこと)へ預けとく云うたって預る方に邪魔にならア!」