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せいにょにんぞう
聖女人像
豊島 与志雄
「群像」1947(昭和22)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页
「先生は女なんかばかにしていらっしゃるから、決してお怒りにならないのよ。」
そうなると、私の微笑は苦笑に変るのだが、それも中途で凍りついてしまう。――私は妙な印象を受けたのだ。そこに坐ってる久子の体が、千鈞の重みに見える。夫婦喧嘩などに成算は持てない。彼女はその時和服を着ていたが、臀部は臼を据えたように小揺ぎもなく、帯や細紐でしめあげた腰の下に、腹部がまるみをもって盛り上っている。その肉体に、私は妥協し譲歩したではないか。
打明けて言えば、初めのうち、閨の中で、私と彼女とは気が合わなかった。私はともすると、うふふと笑った。彼女はしばしば焦れた。焦れては、私の胸を叩き腕をつねった。それが、後には、しっくり気が合うようになった。私の方から、それをつとめて、妥協したのだ。いや、女の肉体が私の肉体を征服したのだ。――男女の関係とは、そのようなものだと私は思う。殊に夫婦の関係ではそうであろう。男の方から調子を合せてゆくのだ。そして自主性を失うのだ。
――清子だったら、そんなばかなことはないだろう。いや、このようなことを言うのさえ、彼女を汚すことになる。そのような彼女なのだ。