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せいにょにんぞう

聖女人像

豊島 与志雄

「群像」1947(昭和22)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页

青空文庫

久子が訪れてゆくと、おばさまの子供も看護婦も自然と席を外して、二人きりで語り合うことが多かった。臨終の時には、久子は死ぬ思いで馳けつけた。おばさまはもう意識が朦朧としていた。

「おばさま、久子です。久子よ……。」

おばさまは痩せ細って、首が折れそうで、頬が蝋のように白かった。睫毛の長い眼を、ちょっと開きかけて、また閉じた。そして囁くように言った。

「久子さん……。」

「久子よ、お分りになって。」

おばさまの喉のところで、へんな音がした。それからひっそりとなった。暫くたって、囁くような声がした。

「久子さん……。」

「ここにいますよ。おばさま、お分りになって。」

「手を握って。」

おばさまの手が、少し伸びてきた。細そりした、然し骨ばってもいない、へんに冷たいその手を、久子は両の掌の中に捉えた。

時がたった。

「久子さん……。」

「おばさま……。」

「手を握っていて。」

「ええ、しっかり握っていますよ。」

久子は両の掌に力をこめた。

そのまま時がたった。

最後の苦悶の時も、それは大した苦悶ではなかったが、久子はおばさまの手を離さなかった。

その清田のおばさまのことが、折にふれて久子の心に蘇ってくるのだ。