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せいかぞく
聖家族
小山 清
「文芸 第十一巻第三号」河出書房、1954(昭和29)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,523 字 · 12 页
ヨセフがそれを聞き咎めて聖書から顔をあげた。と同時に、三人の頭上から毫光が消えた。
ヨセフは椅子から立上って、門口の戸をあけた。そこには、見窄しい身なりをした一人の若者が立っていた。若者の顔つきにも、またその身のこなしにも疲労のかげが見えた。
「お前さん、旅の人だね。」
とヨセフは自分から声をかけた。若者はほっとしたようにうなずいて、
「水を一杯もらえませんか。」
といかにも怖々した口調で云った。
「まあ、お入り。」ヨセフは顔に隔意のない笑いを浮べて、「おれはこんな髭づらはしているが、まさかお前さんを捕って食いはしないから。」
若者は躊躇していたが、家の中へ入った。若者はヨセフからすすめられるままに椅子に腰かけ、そしてマリヤから水をもらって飲んだ。若者の履いている鞋は破れ、その足は塵に塗れている。ヨセフには若者の求めているものが水だけでないことがわかっていた。
「お前さん、どこまで行くんだね。」
「エルサレムまで行くつもりなんですが。」
「それはたいへんだ。よかったら、今夜はおれの家に泊って行かないか。遠慮はいらないよ。」
「それはご親切に。実はどこか納屋でも見つけて潜り込もうと思っていたんですが。