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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
谷崎潤一郎『聞書抄』。同一底本的分册已合并为一书。收入:聞書抄、覚海上人天狗になる事、紀伊国狐憑漆掻語、三人法師。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,821 字 · 210 页
場合ではない、これを菩提の善知識として髻を切り、あの上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)のおん跡を弔おう、そして我が身の菩提をも願おうと、急に決心がつきましたので、その夜のうちに一条北小路へ行きまして玄惠法印の御弟子になり、名を玄竹と附けていたゞいて、間もなく此の御山へ上ったと云う訳なのです。
―――さあ、一分始終は只今申し上げた通りですが、その僧ははんかいの方を向いて、さぞ無念に思し召すでしょう、いかようにも愚僧を殺して下さいまし、身をずた/\に斬って下すっても更にお恨みとは思いませぬ、たゞし愚僧をお斬りになったら、あの上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)のおん為めには却って業因をお作りになるようなものかと思います、命が惜しくてかようなことを申すのではないことは、三宝も御覧になっていらっしゃるでしょう、兎に角申し上げてしまったからには、どうなりともお計らいにお任せします、と、そう云って衣の袖をしぼるのであった。その時糟屋の入道が云うのに、たとい尋常の発心であっても互にこう云う姿になって何の憎しみがありましょう、ましてあの人故の御発心と聞きましては、殊更おなつかしい