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むこ
聟
宮本 百合子
「読売新聞」1934(昭和9)年1月7日、9日、11日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,901 字 · 8 页
階下でボンボン時計が、いかにも時代ものらしくゼンマイのほぐれる音を立てながら悠くり十時を打った。
「――もうこんなですか?――とんだお邪魔してすみませんねえ」
そう云いながらなお未練げにお豊が立ちかねていると、格子が、高い音をたててあいた。
「――きよちゃんかい?」
「ええ」
「二階だよ……ちょっとよせておいただき」
また、ええという声がし、階子段の下で気配がするのに、なかなか上って来ない。
「何してるんだい」
ふ、ふ、ふ。ひとりで含み笑いしている声が軽い跫音と一緒に聞え、カラリと唐紙をあけるなり白いショールを手にからめたきよ子が、
「ただいま!」
見違えるように艶やかな桃割に結った頭を電気の下へ下げた。
「ほほう」
詮吉は珍らしげな声を出した。
「まア……どれ?」
横を向かせて見て、お豊は、
「いいじゃないか」
と云った。
「駄目なのよ。姉さんたら、自分が髷に結うもんだから私にも結え結えって。――洗いもしてないんですもの」
暫らくすると、お豊は娘を先へおろし、やや声を低めて詮吉に念を押した。
「――どうぞ考えておおきなすって下さい。身勝手ですみませんが、気を悪くなさらないで下さいね」