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むこ
聟
宮本 百合子
「読売新聞」1934(昭和9)年1月7日、9日、11日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,901 字 · 8 页
「――あんまり、あせりなさらない方がきよ子さんのためでしょう」
それは詮吉の実感であった。詮吉はお豊母娘の勤労者らしい地味な親切をよろこび、いい下宿を見つけたとは思っていたが、きよ子に対しては、自身の困難な毎日の活動条件から、全然問題にしていなかった。
お豊の方はそうとは知らず、ひたすら自分の目がねの違わなかったのをよろこぶ風で、
「あなたがそうおっしゃることは、わかっておりましたよ。ですからね、猶更私の身にして見れば、ああこんなお方をと思うんですよ」
そして、両眼に涙をうかべながら、
「あなたのような息子が一人あってくれたらねえ」
信じきった眼つきで詮吉を見て笑った。
昔から小糠三合もったら養子に行くなというくらいだから、御覧のとおり何一つないうちへ来てくれとは決して云わない。ただ、生れた子に後をつがせて貰えれば満足だ。きよ子さえあなたに頼めば、もう自分は安心して目が瞑れる。お豊は娘ばかり持った親の苦労を訴えた。
それやこれやから、話は故郷のことに移った。その場合も詮吉は謂わば一つのたしなみで、生れた故郷ではない、育った第二の故郷について、物を云っているのであった。