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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

「この運動靴の底に、エビ藻とフサ藻が、躙りつけたようなぐあいになってこびりついている……湖や沼の岸にある淡水藻はアオミドロかカワノリ……エビ藻やフサ藻は、湖水の中心部に近いところに生えているのが普通だ……どうしてこんなものが靴底についたか? 深く沈んで、湖底を蹴りつけたからだとわれわれは考えるので、岸に近いところで落ちこんだという説には、承服しにくいのです。いま誰かつけてあげるから、どこで陥ったか、その場所をおしえてください」

私服に挟まれて、けさ落ちこんだ湖の岸を探しに行ったが、記憶がおぼろで、たしかにその場所を示すことはできなかった。

一時間ほど後、ひどく疲れてロッジへ帰ると、大池の細君と息子が着いていて、係官となにか小声で話していた。

大池の細君は、久美子がK・Uだと思いこんでいるらしく、こちらへ振返っては、いいしれぬ敵意のこもった眼差で、久美子を睨みすえた。

久美子は煖炉の前の揺椅子に沈みこみ、罪を犯したひとのように首を垂れ、理由のない迫害に耐えていたが、そのうちに、こんなことをしていること自体が、忌々しくて、我慢がならなくなった。

それにしても、なにか、たいへんなところへ陥りこんでしまったらしい。