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かんぞうせんせい

肝臓先生

坂口 安吾

「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页

青空文庫

先生はこれを流行性肝臓炎と命名して患者に説明したが、町の人たちにはオーダンカゼと言ってきかせるのが一番わかりやすいことを発見した。

その時以来、先生は寝食をなげうって流行性肝臓炎の臨床的研究に没頭した。そして数種の手当を工夫したが、患者はそれによって急速に肝臓の痛みがとれるので、これをきき伝えて訪れる肝臓病者が激増し、呼吸器病者はにわかに影をひそめてしまった。

しかし先生の憂うるところは、自らの肝臓病たることを自覚する人々ではなかった。今や自覚することなく、大半の日本人が流行性肝臓炎に犯されているのである。いかにしてこれを知らしめ、正しい治療を与えてやるべきや。先生はあせりにあせった。

それは昭和十四年、お正月、某家に於けるお茶の会の出来事だ。

余興に福引があった。と、一人の娘がひきあてたクジが「赤城風雨先生」というのである。先生が驚いたのもムリはないが、一座の人々も目をみはり、そも何物が当るかとカタズをのんだのも当然だ。読みあげられた答えは四文字。曰く「肝臓先生」。

その景品は牛肉のヤマト煮のカンヅメ。これを象のひく四ツ車にのせ、長いヒモがつけてあって、ひっぱる仕掛けになっている。