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かんぞうせんせい
肝臓先生
「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页
と、男は面白くもなさそうに言いすてると、自転車にのって、お大事に、と走り去ってしまった。先生はガラス戸越しに、それをきいてしまったのである。
又、ある日、先生が医師会の事務所に立ちよると、二階できき覚えのある二ツの声が話を交しているのがきこえる。二人とも、この町の開業医である。
「この町にも、フランスの医者が現れたな」
「なんのことだね。それは」
「アッハッハ。フランスの医者は、胃腸が悪いことを肝臓が悪いというのが常識になっているのさ」
「フム。ボクのところへ新患が現れてだね。ちかごろはカゼのことを肝臓病と云うようになったんですか、ときくんだね。それで、まア、フム、赤城氏性肝臓炎というのができたらしい。カゼばかりでなく、ロクマクでも子宮病でも、みんな肝臓炎だ。感染しないように気をつけたまえ、とね。アッハッハ」
先生はムッとしたが、心をとり直した。言いたい者には、言わしめよ。人に対して怒ってはならない。ただ汝の信ずるところを正しく行えば足りるのである。
先生は二人の医者に気まずい思いをさせては気の毒なので、ソッと跫音を殺して、姿を消した。
しかし、あらゆる患者がみんな肝臓を犯されていることは、先生の診察室では動かしがたい事実となっていた。