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じさつをかうはなし

自殺を買う話

橋本 五郎

「探偵趣味」1927(昭和2)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,685 字 · 16 页

青空文庫

そう云ってしまうと、青年はさも最後の努力で使命を果した、と云った様子で、疲れて沈黙ってしまった。

「恩田さんに会わせて下さい、急用なんです、伴田からです――」

彼は口の中で、も一度それ等の言葉を繰返して見た。何のことだか解らなかった。だが彼は、青年を疑う気にはなれなかった。考えれば考える程起る不審を、青年に諮す勇気も持合せなかった。彼の正しい感じに依れば、この恩人はあまりに疲れていた。若くは虐げられていたようであった。同情を受ける現在にありながら、彼はなお、この富裕な青年に同情を寄せる事が出来たのであった。

彼は請われるまま、すべての問題を信の一字に託して、その夜は絹夜具の中に平和な夢を結んだのだった。

4

翌晩――午後の九時過ぎであった。

それまでに入浴、散髪などを強いられ済した彼野々村君は無理義理やりに、青年の美しい衣服を着せられ、教養ある富裕な青年として、その風采に必要なもの、例えば、正確な型のソフトや、銀の懐中時計や、嫌味のない棒ステッキ、毛皮のトンビに白の繻子足袋、ま新しい正の日和下駄、と云った一分の隙もない装えを与えられ、愈々目的の家に向って、その不思議な使命を果すために、恩人の住居を出発した。