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じさつをかうはなし
自殺を買う話
橋本 五郎
「探偵趣味」1927(昭和2)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,685 字 · 16 页
自分の目的地がそこではないか。
念の為め、行人をとらえてその使すべき家がそれであることを確めると、彼は勇敢にも、その式幕を潜って表玄関に達した。
玄関にはテーブルを置き、其処には家令らしい老人が、紙硯を前に羽織袴で控えていた。彼は一度口の中で復習してから、教えられた通りを静かに述べた。
「恩田さんに会わして下さい。急用なんです、伴田からです」
彼は胸がドキドキした。がそれでよかった。
「恩田さんとな、暫時お待ちなさい」
機械のように老人が奥へ行くと、かなり間を置いてから、幼い女中が案内に出た。
「どうぞ、こちらへ」
で、彼が通されたのは奥まった洋室だった。応接室とは見えなかったが、簡素な、茶を呑むに格好な造りだった。
待つ間もなく、細面の上品な老人が這入って来た。やはり羽織袴で、酒の加減であろう、上機嫌に見えた。
「わしが恩田じゃが、あんたが伴田さんかな、うむよく来られた、苦しいところをよく来られた、わしはとうから察して居りますじゃ」
老人の面には、チラと同情の影が通り過ぎた。彼は眼を瞑って云った。
「敏子さんに会わして下さい」
「うむ無理もない、じゃがのう伴田さん、世の中の事はむつかしいもんじゃ、意の如くならんもんじゃ、わしは会わせたいが世間がそうはさせぬ。