轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
「ありがとうございます、おっしゃっていただいたことは忘れません」七重は指で眼をおさえながら云った、「――うれしゅうございますわ」
出三郎は彼女の姿をじっとみつめた。たっぷりある重たげな髪、ふっくらとした頬、小さな肩から豊かな胸となり、腰から脚へとながれる、艶やかに柔軟な線。
――早く忘れることができればいいが。
胸にするどい苦痛を感じながら、そう思って彼は眼をそらした。
七重の婚礼には兄夫婦が出た。むろん、部屋住みで独身の彼などに出席できるわけはない、彼は二十八日の夜をひとりで祝杯をあげた。兄が酒を飲まないので、ふだん家には酒がない。彼は母に頼んで少しばかり買ってもらい、自分の部屋へ膳を運ばせて、七重の幸福を祝って飲んだ。
日がたち月がたった。
秋の彼岸に七重が訪ねて来た。実家に来たついでに寄ったのだそうだが、出三郎は資料集めに出ていて会えなかった。
「出さんがいないので残念がっていましたよ」
母がそう云った。彼は無関心をよそおっていた。一日も早く忘れたいと思うし、また他人の妻になった姿などは見たくない、会わずにすんでよかったと、ほっとしたくらいであった。